やはり僕は、マゾだった。
2013年にラオスに行った時のことである。
以前フランス領であっただけに、フランス料理屋が多い。
その一軒、ビエンチャンにある一番人気だというフレンチレストランで、よせばいいのにやってしまったのである。
確かに混んでいる。
ラオス人の客はいない。フランス人かどうかはわからないが、客の大半は白人である。
だが店に入って、何か違和感を感じた。
サービスが、皆ラオス人だったからではない。
気がついた。
なぜか奥にピザ釜がある。
一抹の不安がよぎったが、その後「ボンジョルノ」とフランス人客の団体が入ってきたので、これは行けそうだと確信する。
メニューは実に豊富である。
肉料理、魚料理が各20種、ピザもパスタもある。
まあここは冒険せずに、ステーキの緑胡椒ソースかクスクス、牛肉の赤ワイン煮込みかなと思い、皆さんにはそうした無難なメニューを、注文をした。
さて僕はどうしようかと眺めているうちに、いきなり知的好奇心が暴走した。
どうしても、オススメの星印がついている、「Soupe de poissons “ala provencale”」を頼んで見たくなったのである
プロヴァンス風の魚スープである。
海がないラオスで、魚のスープを頼んでしまった。
山奥の食堂で、白身魚と青魚の刺身を注文するようなものである。
いやそれより上かもしれない。
かくしてスープ・ド・ポワソンはやってきた。
色は薄茶色であり、本物と遜色なく、ルイユは添えられていないが、バケットが乗っている。
一口飲む。
その瞬間に、笑い出した。
これは煮干出汁の味ではないか。
しかも、煮干をすりつぶしてグラグラを出汁をとったと思われる、暴れた味である。
しかも川海苔のような香りもする。
たしかにスープ・ド・ポワソンという名称に嘘偽りはない。
しかし三流の安い寿司屋で出される、あまり滋味が出ていない、ほのかに酸化臭がするあら汁のほうが、はるかにスープ・ド・ポワソンである。
主菜にはなんと、「Magret de Canard au Calvados et aux Pruneux」(マグレ鴨のロティ、カルバドスとマリネしたプルーン風味)というのを頼んでしまった。
他にもオレンジソースや緑胡椒ソース、ボルドネーズなどがあって、鴨料理はイチ押しらしい。
運ばれてきた。
見た目は問題ない。
一口食べて、また笑った。
なんだこれは。
鴨が固いのはいいとしても、ソースが個性的である。
懸命に探しても、カルバドスのカの字も見当たらない。
ソースは甘いが、薄くも濃くもない、中途半端な、行き場のない甘さが舌の上に流れていく。
そのソースの味を一言で表現するなら、「グミの味」である。
グミのケミカルな味わいのソースが、鴨にかかっていると考えてほしい。
しかも片栗粉でとろみをつけたのだろうか、ソースが随所で結着している。
味が抜けた硬い鴨に、グミ風味のドロドロしながら、ところどころ固まっているソースがかかっている味を、想像できますか?
ここまでまずいと笑うしかない。
いやあ。まずいものは勉強になるなあ。