<パティスリーアサコ>

食べ歩き ,

「私はこのままリンゴになりたい」。
連れの女性が、感動のあまり意味不明な言葉を口走った。
まだ代々木上原にあった「イル・ブルー・シュル・ラ・セーヌ」で、出来立てのシブーストを食べた時である。
先日知り合いの方が、その「イル・ブルー・シュル・ラ・セーヌ」の菓子教室に8年も通っていたということが判明し、思わず「シブースト作ってください」と、お願いしてしまった。
世界一厳格なことで知られる料理教室である。
しかもこの菓子は難関なことでも知られている。
そして当日を迎えた。
3回行うというキャラメリゼを、一つは熱した鉄コテで、一つは炭でやっていただいた。
目の前には艶やかなシブーストがある。
リンゴは、糖度や酸度、熱した時の果肉感などを試行錯誤され、グラニースミスを使われたという。
酸味が強く、煮崩れない品種である。
フォークの刃を立ててキャラメルを割り、クリーム、リンゴ、フィユタージュまで一気におろし切る。
口に運ぶ。
ううん。
笑いながら唸った。
あの感度が蘇る。
キャラメルの香ばしさのからクレームシブーストが、ゆっくりと広がっていく。
その後からリンゴの酸味が、追いかける。
なによりも、クレーム・シブーストの重さがいい。
いや軽さといったらいいか。
軽すぎず、重すぎず、ぼってりと舌に触った瞬間に消えて、夢になる。
それは、クレーム・パティシエールの重さに、ムラング・イタリエンヌの軽やかさが自然に抱き合い丸くなった、絶妙なバランスだった。