<駅弁勝負> 第19番 続マイベスト

駅弁 ,

譲らぬもの。
日本全国の駅弁の中で、これが一番だと思っている。
「おぎのや」の「玄米弁当」である。
恐らく日に30個くらいしかつくってないのではないか。
釜飯ばかりやっていればいいのに、なんでこんなに効率の悪い弁当を作り続けているのか。
これもまたおぎのやの挟持なのか。
この弁当には必要なものしか入っていない。
ぽそぽそになった海老も味の抜けた牛肉も入っていない。
不必要な赤色系や黄色系も入っていない。
画竜点睛を欠くのは、パセリくらいか。
必要以上のことは、当然ながら不必要で、人間のおごりである。
その美学が静かに息づいている。
玄米は噛み締める程に味わいがあり、旨味調味料、動物性脂肪、食品添加物をしようしない惣菜は、しみじみとしたうまさがつのる。
がんもは出汁がちゅっと飛び出て、きんぴらひじきも、こっくりと濃く、味の安らぎがある。
沢庵の固さや、椎茸の飴煮加減もいい。
栞には、「ご旅行の時ぐらいは、ごゆっくりと噛んで(一口八十〜百回)、主食を三口、副菜を一口の割合で召し上がってください」
へそ曲がり故にこういう但し書きを見ると、余計なお世話だと思うタチだが、
この弁当の場合は素直に従う。
噛んでみると50回が限度である。
もう一度噛む。
いかに普段が早く噛んでいるのかを知り、ゆっくりと噛めば、80回は行ける事がわかる。
噛むうちにありがたみが体の底から、競り上がる。
食べ物が、浄血をうながし、こうべを垂れる。