<駅弁勝負> 第20番  大阪駅の「八角弁当」を考察する

駅弁 ,

大阪駅の「八角弁当」を初めて食べたとき、ああこれは、大阪という町は、食魔にとってすばらしい町なのだと痛感した。


15品のおかずは、風味を生かす丁寧な仕事が行き届いていながら、少し甘い味付けで、ご飯を恋しくさせる。
脂の甘みを伝える穴子の八幡巻き、茄子の香りを残した、甘過ぎない含め煮。高野豆腐の淡い味付け、玉子焼きから滲み出る出汁のおいしさ。
塩がきつくない焼き鮭。厚く質のよいほの甘味に笑う、かまぼこ。
ピリリとした辛さが引き立つ牛蒡の煮つけ、味が染みた蕨と蒟蒻の煮つけ。少し甘い、筍、昆布巻き、白豆の煮つけ。
味付けのほどのよさに品が漂う、椎茸や人参。松皮に包丁目が入れられた、美しいイカのウニ焼き、柔らかく豆の香りが広がる空豆煮。ご飯を食べてくださいと訴える、鶏肉や海老の甘辛煮。

よくある弁当のように、冷めて確実にまずくなる揚げ物を入れて、かさを増やそうとはしていない。
醤油や芥子の小袋を添えず、それぞれに的確な味が付けられている。
そして俵型の一口ご飯は、ゆったりと詰められていて、固すぎず柔らかく、幸せ感をにじませる。
大阪こそが味の町であるという誇りが、一つ一つに込められている。


京都とは違う洗練と実質主義が、一つ一つの味を輝かせている
東京人のボクは、こりゃかなわいなあという敗北感を、嬉しく噛み締めたのであった。
ところが、この食都大阪を代表する弁当は、次第に脇に追いやられていった。
ホームから消え、コンコースから消え、改札外の小さな売店でのみ買えたのだが、それも改築後は無くなった。
各地の文化を写した駅弁は消え、JR東海パッセーンジャーサービスの独占となっていく。


そ「八角弁当」や「御堂筋弁当」、「汽車弁当」、「昭和洋食弁当」、「チャーシューマイ弁当」、「小弁当」、「ドライカレー弁当」、「浪速御膳」、「夏のはも膳」、「松茸弁当」など、数多くの傑作弁当を生み出してきた水了軒は、2010年に倒産し、明治23年以来の弁当製造の幕をおろした。


駅弁ファンを絶望の縁に立たせたが、その後ブランドをデリカスイトに売却したことにより、復活する。
現在では、汽車弁当と八角弁当のみを売っている。
長らく新大阪駅では売られず、大阪のデパートのみの販売だったが、今では構内やホームでも「八角弁当」のみ売られている。
しかし販売量が少なく、売り切れてしまうため9時半までには買いたい。


久々に買った。
茄子や玉子焼き、野菜の煮つけ、ご飯は以前と変わっていない。
しかし穴子の八幡巻きや牛蒡や蕨はなく、魚は赤魚の味噌焼きに変わり、蒲鉾が薄く貧相になってしまったのが、悲しい。
でも頑張れ。大阪の誇りを詰めて頑張れ。
ボクは他には目もくれません。
必ず今後も買い続けます。

写真は、現在の八角弁当と以前の中身。
現在の八角弁当と以前のパッケージ。
本来のパッケージ。