半チャンラーメンが頼めない

食べ歩き ,

<半チャンラーメンが頼めない>
街の中華に入って、悩まない人はエライと思う。
支那そばか焼きそばか、ニラレバかタンメンか、餃子か中華丼か、フツーは、思いが千路に乱れ、苦慮葛藤し、七転八倒する。
ところが席に座って直ちに、「チャーシューメン」と頼む人がいる。
あれはすごい。
躊躇という言葉が、微塵もない。
ここに来る道すがら、考えてきたのだろうか。
昨夜に、よし明日の昼はチャーシューメンだと決めて、眠りについたのだろうか。
僕とは思考速度が違うのだろうか。判断決定力が抜きん出ているのだろうか。
尊敬をする。
その点、「半チャンラーメン」は素晴らしい。
炒飯とラーメンという迷いを一気に解消するわけだから、考えた方は天才である。
一説によると、発祥は神保町「さぶちゃん」で、「チャーハンとラーメンが両方食べたいんだけど」という客のわがままを聞いて、とっさに店主が半チャンラーメンを作ったのだという。
確かに、「さぶちゃん」に初めて行った40年前には、「半チャンラーメン」が世にはびこってはいなかった。
頼んだ客も、作った店主も、こんなに蔓延するとは、夢にも思わなかっただろう。
半チャンラーメン以外にも、「半チャン焼きそば」や「半ニラレバ半チャン」とか、「半タンメンニラレバ」とか、いろいろ考えて欲しい。
まあ世の中にはそういう店もあると聞くが、まだ一般的ではない。
しかし。その素晴らしき「半チャンラーメン」が頼めない。
いざ運ばれると、炒飯とラーメンどちらを食べるべきか悩んでしまうのである。
炒飯を手につけていると、ラーメンがのびてしまう。
逆だと、炒飯は冷めていく。
交互に食べてもいいのだが、ラーメンスープは炒飯に合うが、麺は合わない。
次第に互いの味に集中できなくなり、僕は途方に暮れる。
どうしたらいいのか?
ある日名案を思い付いた。
「半チャンラーメン」を頼み、「すいません炒飯は後でくれませんか」という。
あるいは、ラーメンを頼み、大分食べ進んだところで、「すいませんこれを今から半チャンラーメンにできませんか」と、頼む。
ラーメンのスープを合いの手に、心置きなく食べる炒飯はおいしい。しかしそこまで店主の手を煩わせて、「半チャンラーメン」を頼むべきかという問題があって、やはり僕は、中々「半チャンラーメン」が頼めない。