出雲を醸し、日本一の高みを目指したい

日記 ,

「出雲を醸し、日本一の高みを目指したい。そう思っています」。
清酒「出雲富士」を作られる富士酒の今岡稔晶さんはそう言って、目の奥に炎を灯された。
「曽祖父は、日本一の山にちなんで、この酒を命名しました。僕の代になって何ができるかを考えた時、これしかないと思ったのです」。
地元の米、地元の水、地元の空気で、酒を造り、高みを目指す。
基本は地元の米だけを使うが、それだけではわからないところも多いので、最高米を少しブレンドした酒も作り、違いを識る。
酒蔵はリニューアルを重ね、壁は漆喰を塗り、床は新たな板張りにした。
「漆喰は汚れるので嫌がる人が多いのですが、この白さに囲まれると心が澄むんです。自然と働く人の仕事が丁寧になりました」。
また彼の代になって、エアコンを取り外したのだという。
出雲冬は寒い。
「出雲を醸すと考えた時、エアコンは違う空気なのかなと思いました。寒くともその場の空気を感じながら酒を作ることが大事なのだと思ったのです」。
絞りも機械ではなく、昔ながらの木製の舩を使う。
「重労働です。実は機械の見積もりも出してもらったんですが、高くて買えなかった。そのうちにと思っているうちに、この重労働に意味合いがあると感じたんです」。
重い袋を何段も重ねていく。そして力を込めてしぼりあげる。
重い労働だからこそ、“思い”に繋がるのだろうか。
実は、もう一つ工夫がある。
調光装置があって、明るい白熱灯から電球のような暖色を帯びた、やや暗い照明に変えることができるのだ。
「ほら、この方が雰囲気あるでしょ。作業には不向きなんですけどね」と、今岡さんは嬉しそうだった。そして言葉を続ける。
「この方が出雲らしい。なんと言ってもこの地は、雲が出る国ですから」。
雲出る国を醸す。
その酒は、米の甘みや旨みが素直に出て、丸い。
余計な媚や主張がなく、雲のように伸び伸びとしていて、我々の心にすうっと寄り添うのだった。