松本「サイドカー」

サイドカー。

食べ歩き ,

蔵造りの家々が並ぶ、古の趣を残す通りにそのバーはあった。

扉を開けると、カウンターが奥に伸び、ご主人が1人立っている。

「いらっやしませ」。抑揚のきいた声で挨拶された。

一杯目は何にしようか?

「ウィスキーをお願いします。なないか珍しいものはありますか?」

そう聞くと、出してきてくれたのはマルスウィスキーである。

鹿児島の本坊酒造が信州で作るウィスキーの一つ、「駒ヶ岳」であった。

マルス信州蒸留所で熟成させ、一樽ごとに違う原酒を日本の伝統食で表現した、シングルカスクウィスキーである。

その名の「鮮緑」のように、くっきりとして舌に迫り、目を閉じた後もその色がまぶたの裏に刻まれるかのように、余韻が長い。

2014年2月に蒸留し、2019年の暮れに瓶詰めしたものだという。

5年と10ヶ月眠って瓶詰めされた195本の一つが、僕の目の前にある。

20分かけてゆっくりと飲んだ。

次は、やはり「サイドカー」を頼もう。

大戦中に劣勢に陥ったフランス軍は、兵士たちに戦場からの退去を命じるが、ある将校がその時に乗っていたのがサイドカーで、彼は恐怖を紛らわせるためにレモンをかじりながらブランデーとキュラソーを飲んでいたことに由来したともいわれるカクテルである。

あるいは、バイクの横につなげる座席のことを指すため、「ずっと隣にいたい」といった意味から「いつも二人で」という意味を込めて名付けられたという説。

パリのはハリーズニューヨークバーのオーナーバーテンダーであハリーマッケルホーンが、が1933年に、マッケルホーン自身が考案したホワイトレディを、フランス人向けに改良したカクテルであり、このカクテルを愛飲する客がサイドカーに乗っていたことから名付けられたという説もある。

あるいはNYのホテル「ホフマンハウス」のバーテンダー、チャールズ・マハニーの考案という説もある。

さらには、第一次世界大戦中に生まれたこのカクテルは、サイドカーは事故を起こした際、運転手よりもサイドに乗る女性の方が危険だということに由来し、サイドカー=女性キラーというのと、このカクテルの飲みやすさで女性が酔いつぶれることをかけてつけられたという説もある。

ジン、トリプルセック、レモンジュースをシェイクしたホワイトれデイに対し、ブランデー、コアントロー、レモンジュースをシェイクしたカクテルである。

サイドカーを飲みながら、店名の由来を尋ねた。

「若い頃バイクに乗っていて、転んだことがあり、危険だと思い、サイドカーに乗り換えたんです。でもサイドカーってひ左折と右折で全くコツが違うので苦労しました」

そう言って屈託のない笑顔を作られたのだった。