すいか2 尾花沢スイカ

食べ歩き ,

考えてみれば、果肉をさらけ出して売られているの果物はスイカだけである。

同じ瓜科のメロンなんかは、いまだ神秘性を保っているのに、スイカは大きいがゆえに切り分けられ、その分魅力が薄くなった。

同じような意味で僕は、料理屋で出されるスイカにもときめかない。

ザクッと包丁が入る、あの瞬間から体験したいのだ。

しかし最近、そんなスイカ食いの喜びを与えてくれる店を知った。高島屋の地下に入っているフルーツパーラー「レモン」である。

「レモン」では、桜前線のように北上するスイカを、店長が常に食べて、その日に出す産地を決める。

三月の沖縄から始まり、熊本、鳥取と続き、九月の山形の尾花沢スイカまで、厳選されたスイカを食べさせてくれるのだ。

狙い目は、開店間際から昼前ぐらいで、この時間帯に行けば、丸ごとのスイカから切り分けてくれる。

特にお奨めは、尾花沢スイカで、長さ三十六センチ程の巨大楕円型スイカを、冷蔵庫からうやうやしく出し、えいやっと包丁を入れるのである。

目の前で包丁の切っ先が入った瞬間、「ああ、やめて」と呻き、二つに割られ、真っ赤な熟しきった果肉が現れ出た途端、「おおっ」と、叫んで手を叩きたくなる。やはりスイカはこうでなくちゃ。

やがて十二分の一に切られたスイカは、上の芯をそぎ、さらに食べやすいように六等分されるが、あなたがスイカ食いなら、そこで待ったをかけ、半月型のまま受け取ってかぶりつくべきである。

もっとも、いかにも糖度が高そうな真っ赤な色合い、ふわりと香る甘い匂い、種が少ない充実した果肉に出会ってしまえば、添えられた塩もスプーンも使う事なく、誰でも思わずかぶりついてしまうだろう。

シャリッ。

一気にかぶりつくと軽快な音が響く。前歯にしみる冷たさを通して、甘い果汁が口の中に流れ出す。

フカフカな部分など微塵もなく、最後の一口までみずみずしい音が響く。

汁が口から溢れ出すほどジューシーなのだが、果肉自体に張りがあるので、だらだらと皿にこぼれたりせず、口の中だけで、シャリシャリと夏が弾けるのである。

スイカはこうして食べるのが一番うまい。

これ以上も以下もない。