「あんたいくつダァ」

日記 ,

「あんたいくつダァ」
「63です」
「おらあ、63の時は、毎日5回やってた。ガハハハ」。

89歳になる前本隆一さんは、そういって豪快に笑った。
彼は、竹富島でだだ一人の農業者である。
かつて大勢いた農業者は、もっと広い石垣や西表に渡った。
残った農業者は生活が苦しく、転業し、次第に減って前本さん一人になってしまったのである。
彼は、このままではいけない、粟や芋類、ニンニクなど、竹富島固有の種を残そうと頑張ってきた。
星のや竹富島では、その文化を継承するべく、敷地内に畑を作り、前本じいが守り続けてきた種を植え、栽培を教わりながら、育てている。
また前本さんは、薬草類の「命草ぬちぐさ」の権威でもある。
前立腺にはこれ、高血圧にはこれ、糖尿病にはこれと草の名前が、スラスラと上がる。
かつての島には、医者がいなかった。
それゆえに命草の効用が研究され、口伝にて代々伝わっているのだという。
前本さんの元気な姿を見ていると、現代医学は人間の知恵の集積ではあるが、自然とはかけ離れていることを知る。
自然と共生する

自然に生かされるということの意味を、前本さんに思い知らされた。